2017年3月8日水曜日

「上巳の節供」の展示を終えて(2) 水と雛祭り 

上巳の節供は中国における水辺の禊ぎが起源と
言われます。雪解けで水かさが増すこの時期に
春の農耕に先立って行われる物忌みや祓として
の「山遊び」や磯遊び」が盛んに行われたといわれます。
また3月3日は大潮とも重なり、潮干狩りも楽しまれました。

今回は水に注目し、今回は貝雛の作家、原久美子さんと
一緒に「水と雛祭り」というテーマで作品展示をいたしました。

入り口横の展示
三角に折った生地にお香を入れた
結びの掛け香

貝桶のひな型と、貝雛のお内裏様
 
貝雛:3人官女・五人囃子
お仕覆の中は二段重になっていて
小さなお内裏様と3人官女が入っています。
 
檜扇の結び
お仕覆は梅結び
雛あられを結びで。
六角形の貝桶のひな型には「とんぼ結び」
(男とんぼ・女とんぼ結び)
八角形の貝桶のひな型には「うろこ結び」
一対のものに施す結びは
左右対称、表裏など対にして結ばれます。
蝶を象った結び
背守りとして制作

 
うろこ紋を象った三角のお香袋と、
渦で水を表した結び


卯槌の五色の紐を
桃の節供らしい色合いに変えたもの



東京マラソンの日
ギャラリの前は往路と復路のコース。
ギャラリーから撮った写真
 
10年ぶり、20年ぶりという方もおいでいただき、様々な時代
でお仕事を共にした方々との再会もありました。
結びの文化に触れるのは初めてという方もたくさんいらっしゃ
いました。
少しづつですが、古代から大切にされてきた結びの再現から
結びについてさらに考察していきたいと思います。

支えて下さった多くの方々に心より感謝いたします。

「上巳の節供」の展示を終えて(1) 薬玉の事  

2017年2月17日~3月3日まで
清澄白河tearoom Gallery 楽庵 にて10年ぶりの展示会
を無事終えました。
ご来場の皆様には心よりお礼申し上げます。

今年は楽庵で初めての作品展を開いてから10年目に当た
ります。
2007年、楽庵での作品展に向けて制作したのが「薬玉」。
この薬玉がご縁で様々なお仕事と結ばれました。
 

2009年十和田現代美術館で開催された折形デザイン研究
所の「新包結図説・展」。
折形のひな型が壁を飾る中、この薬玉の写真は大きく引き
伸ばされ、展示されました。


そして氷川神社とのご縁から、氷川会館には薬玉写真の
パネルが飾られています。


2007年、この薬玉を制作しているころは、父の介護で山口
と東京を年6~7回往復するという生活。
帰省の度に途中下車して京都の西村望代子先生のお宅に
伺って、2~4時間ご指導頂き、この薬玉も絵を見て結びたい
と申し出たところ、ちょうど私も制作にかかっていたところだ
からと、花弁やつぼみの作り方など快く教えて下さいました。

父の入院が長引き、作品展に間に合わないため菖蒲の葉
や、全体のまとめ方などは山口で何とか制作、ようやく完
成してぎりぎり間に合ったという思い出深い作品です。

父は2009年に他界、西村先生は昨年夏にお亡くなりなり、
この作品は父と先生二人分の力が宿った大切な結びとして、
特別なものになりました。
こうして多くの方の目に触れる機会を得られたことを、今更
ながらありがたく思います。

10年目という節目の作品展に際し、この結びがくれた様々
な出会いをしみじみと感じさせられる展示会となり、10年
という歳月の重さを実感するとともに、これからの10年を
思い描きつつ、またコツコツ結んでみようと思います。

2017年2月4日土曜日

上巳の節供~水と雛祭り~ 2017.2/17~3/3

在廊日は 土・日・木曜日でお知らせしておりますが、
ご連絡いただければご都合に合わせます。
火曜日定休、水・日・祝日は夕方5時までとなります。
 
 
■ワークショップについて
 
 申し込み お店に直接お願いいたします。(03-5621-4777)
 2月25日(土)・26日(日)各10名づつで行います。
 貝に古布を貼り、お香を入れ、結びを施して貝と結びの掛け香を作ります。

 
 

2016年6月8日水曜日

2016小倉織 ミラノデザインウィーク出展に際して

この4月、 Milan Design Week に
染織家 築城則子 × 建築家 白川直行によるインスタレ
ーションを見にミラノに行きました。今回のイタリア旅行は
人生においても特別な経験となり、思わぬ出会いに恵まれ
たとても幸せな旅となりました。


ミラノ大学 小倉織の展示

 
小倉織の機械化を探求しブランド化した「縞縞」。
その生地を正方形に裁ち、折ったもの約1400個を使って
制作したシャンデリア。




シャンデリアの中央にちょこんとついているのは、この包み
を使った訶梨勒(かりろく)です。結びは六方緒締め。
築城さんからこのシャンデリアに結びのついた訶梨勒をつ
けたいのだけど、とご連絡いただき急遽制作しました。

2014年和光での「築城則子染織展」において、この訶梨勒
を10点制作しました。
その訶梨勒と同じ折りが今回のモチーフとなり、嬉しいことに
またあの時の訶梨勒がミラノでお披露目されました。

夜になってライトアップ!

階段上から
ミラノ大学の校舎は素敵でした

ほとんどの方が気づかないと思いますが、ここに結びをつ
けて下さって私の中では「包み」に「結び」がついたという意
味で、日本らしさがまさに慎ましく表現されているようで、
階段上からの眺めがとても気に入りました。


多くの方が訪れました



ミラノ大学エントランスすぐの回廊

縞は無限の世界を表します。
築城さんの小倉織は昔のものより糸を細くして経糸の数を
増やしたもの。2300本と聞いています。
なめらかな感触と、繊細なグラデーション。

室町時代に確立した武家礼法である折形を研究し、
今に活かす方法を探求してる折形デザイン研究所がオリ
ジナルの包みとしてデザインした「貝包み」。
デザイナーの方々による折形のデザインはその精神性に
価値をおき、デザインは極力シンプルに、機能的に折られ
ています。本当に美しいです。

そして、その二つを融合して、素晴らしい空間を生み出し
た建築家の白川さん。
白川さんの徹底したこだわりはため息がでるほど。
縞の特性とその美しさが3つのオブジェで表現されました
が、その広がりの中に厳粛な場の空気も流れ、一つ一つ
見入ってしまう作品でした。


 

見違えるほど変容した伝統の世界にしっかり残っているの
は形ではなく残すべきものと変えたいもの、その線引きを
どこへ持っていくかというとても難しい問いへの現時点で
の答のように思えます。

結びは何を残し何を変えていけばいいのか。
小倉織、縞縞、折形。
このご縁にはいつも大きな学びの場を頂いてきましたが、
今現在も進行形でいられることを大変幸せに思います。



2015年11月26日木曜日

ヒンメリに囲まれて ~ 葉山ワークショップより ~

Himmeli(ヒンメリ)の語源はスウェーデン語で「天」を表す
そうです。1150年という遠い昔から冬至祭ヨウルの装飾品
として、主にライ麦の藁で作られていました。
そこには穀物の精霊が宿り災いを避けるといわれ、食卓の
上の天井に吊るして光を求めたといいます。

ヒンメリを独学で研究し、そこからさらに進化して“麦わら
彫刻”という新しい世界をみつけ、制作活動を続けている、
おおくぼともこさん

先日、おおくぼさんのアトリエで結びのワークショップを開
かせて頂きました。
葉山を中心に活動されている様々な分野の方々が参加し
て下さり、結びのお話一つ一つにご自分の経験や興味の
あることとの共通点などへ次から次へとお話が広がり、と
ても楽しい時間でした。新しい結びの世界への一歩を踏
み出せたように感じています。

外の風が気持ちの良いアトリエ。
左上にヒンメリがみえます。

おおくぼさんと私のご縁はまさに「結び」でした。
折形デザイン研究所の折形を学んだ後に、結びの講座へ
参加してくださって、私はヒンメリというものを初めて知りま
した。

ヒンメリの起源を追及されたおおくぼさんは日本の藁の文
化との類似性をみつけます。
日本でこの時期の藁の造形物といえば「しめ縄」。
どちらも結びの力を信じた人々が作り伝えてきた造形物
として、同様の役割をもっていると考えたのです。

清浄な地と不浄な地を分け、神様を迎える神聖な場を
しめす注連縄はもともと一筋の縄でした。しかし注連縄は
結ばれ、地方色豊かな形を生み出します。
結びは結界として、穢れから人々を守る呪力を持つもの
と考えられていました。魂を結びとめ、思いを結ぶ。
注連縄はさらなる力を求めて結ばれていったのでしょう。

結びを単なる留めの技としてとらえるのではなく、ヒンメリ
の美しさや祈りが「結ぶ」ことによって完成する、という感
覚は、実際に手で作業をする時間から生まれたのでは
ないかと、結んでいる時に感じる安心感のようなものか
らそのように思います。

結びのことをヒンメリの講座でお話してくださったことか
らこのワークショップが実現しました。素直に嬉しく、
ありがたく思います。

アトリエで見せて頂いた「藁の文化」という本。


冬の厳しい北欧と災害の多い日本。
「ワラ」という大切な主食である麦や米の副産物から、人々
は生活用具だけでなく、日々自然と向き合って暮らしていく
ための知恵としてヒンメリやしめ縄をつくり、また作る喜びを
感じたことでしょう。
日暮れの早いこの時期には特に、北欧の人々が太陽を、
闇に光を求めた気持ちを感じることができます。

この日のワークショップは誰でも一度は結んだことがある
「ひと結び」を人々がどのように使い、さらに別の結びへ
発展していったかなど体験して頂きました。
昔は女学校でも結びを教えていて、結びのひな型をきちん
と作っていたようですので、それに倣って今回は結びの
ひな型を皆さまに作っていただきました。

「ひと結び」からできる結び3種


決まりはないのですが、今回はこのようなかたちに。
心覚えとして時折思い出していただければと思います。

ランチは“草舟 on Earth”の「草弁当
出汁も含めて動物性のものは使わないという、草文化探求
家の方が作ってくださいました。とても美味しく楽しいお弁
当です。




草弁当 
左上はお麩で作ったもの。
 
草弁当にはツユクサを使ったお料理がありました。
はるか昔には「草むすび」という伝達のための結びが
あり、またまた日本人の自然観に会話が弾みました。

葉山という街の魅力はこの自然に恵まれた土地への住ま
い方をそれぞれしっかりと持てるということなのかな、とこ
の街の心地よい風が忘れられないワークショップとなり
ました。

2015年7月3日金曜日

代々木上原 「うつわや」ワークショップから思うこと

6月30日代々木上原 うつわや でワークショップを開きました。
2010年6月から始まった結びの講座は、東京で最初の試みでした。

「うつわや」今月の展示会
涼やかな器展 ガラス・白磁・染付 7月4日(土)-12日(日)  7/8(水)休
 
 

下関市の長府毛利邸「二人展」の写真をご覧になったオーナーが
ここで結びの講座をやりませんか?と声をかけてくださいました。
あれから5年。お蔭様で、多くの作家さんの素敵なうつわにも出逢いました。

今回の講座のテーマは「結びの陰陽」。
あげまき結び、叶結びの練習から七夕を前に、短冊に結びを施しました。

 
真中は叶結び。
表は「口」裏は「十」という字に見えることからこの名がついています。
 
風俗博物館の資料より 「あげまき結び」と「叶結び」
 
 
毛利邸の「七夕の室礼」では、祇園祭りの角房につけられている結びを
5色の短冊にほどこして、笹の葉にむすびました。
 

毎年祇園祭に出かけて、鉾の結び、屏風祭りの結び、そして山車の緊縛と
結びの写真をとっては結ぶということを楽しみにしていました。
疫病除けの祭りである祇園祭りの結びに願いを込めてた短冊です。

 
毛利邸裏山から切り出した「金明竹」に七夕飾り



京の七夕さん 大正時代の布で作って頂きました。
右下のガラスはうつわやさんでみつけたガラスのオフジェに
5色の糸を通した針をからめたもの
 
箪笥に入れておくと衣装が増えるとか、裁縫の上達を願って作られたといわれます。
 
 

京都祇園祭りで御稚児さんが太刀で注連縄を切って神域との結界を解き、
山車が神域へと動き出す瞬間は、ムスビに秘められた力が太古から
継承されていることを実感します。

長刀鉾による注連縄切り。ここにもあげまき結びが。



歌舞伎座の入り口にも大きなあげまき結びが下がっています。


今回のワークショップはあげまき結びがどのような場所で、
どのような使われ方をしていたかということを写真で見て頂き、
まだまだ未知なる結びの世界を、皆様とあれこれお話しました。

みなさま日本文化に日ごろから興味を持っていらっしゃるので
私の思い込みもこの場で新しい見方に出合い、結びの研究
(おおげさですが)を進めていく活力になっています。


氷川神社「ご縁市」でのワークショップ準備
 

結びのワークショップの意義ってなんなのかな、といつも自問
しながら計画を立てるのですが、まずは心地よい「場」がもてるか
ということが大きく関わってくるように思います。

個人の教室を持たない私に「場」を提供してくださった方々に感謝し
その「場」がよいきっかけとなるよう、結びを探求していきたいと
思う一日でした。

2015年2月10日火曜日

和菓子と水引

両口屋是清の季刊誌「いとをかし」のお仕事で和菓子職人さんにとって
水引が結べることが大切なお仕事だということをお聞きしました。

季刊誌「いとをかし」22号 (2015年1月)
 

昭和27年に入社した和菓子職人さんによりますと、すべてのお菓子は木箱に入り
水引をかけられていて、お菓子の修行に入る前に水引を結ぶ練習に励んだとあります。

日本最古の包み結びの専門書と言われます伊勢貞丈の「包結記」によりますと、
水引の結びには陰陽があり、平たいきもの、丸きもの、とその形によって決まった
結びがあることがわかります。


 
また貞丈著の「貞丈雑記」によりますと、「白は五色のもとなり」とあり、
紅白に染め分けられた水引は「左は白」である理由を挙げています。

和菓子の世界でも、紅白のお菓子は、水引同様に左に白というのが
常識になっているそうです。今回このお仕事で教えて頂きました。

日本の結びの特徴に吉凶・陰陽のあることが挙げられます。
贈り物の包みや結びのみならず、贈答品である和菓子にまで、室町時代に
確立された武家礼法に適った考え方が守り続けられてていることに、
改めて驚きをおぼえます。

折形が折り紙と違うところは、そこにメッセージが含まれているということだ
といわれます。相手との関係を重視し、自分の立場をわきまえる「包み結び」。
そんなことを思いながら、最近はプレゼントに半紙と水引、または紐で
包み結びを考えるのが楽しくなってきました。