2010年12月26日日曜日

2010年を振り返って

11月30日、父の一周忌を迎えました。
この1年は結びを通じて新しい出会い、新しい試みが
続きました。父が「やってみなさい」と背中を押してくれ
ていると思うと、前に進む勇気がわきました。

それは、これまで続けてきた「結び」と「包み」の
出逢いでもありました。「包結記」という本を江戸時代に
出版した伊勢貞丈。武家社会に生きた故実家の1冊の
本が、私を折形の世界に導いてくれました。

折形教室に通って以来、この本は私に包み結びの奥に
ある心のあり方を伝えてくれる大切な本となりました。



室町時代に確立された折形を、「日本人ならではの美しい
伝統の一つ」として、現代の折形を探求する折形デザイン研究所
いつかこんな風に結びを伝えていきたいと思うようになり、
自分の方向性がうっすらとですが見えてきた年でした。

そして今年、かねてから興味のある五節供や年中行事を
テーマに結びのワークショップを始めました。
結びの文化の入り口として包みの基本を取り入れ、半年かけて
結びと包みをゆっくりとやってみました。


9月の講座は「重陽の節供」がテーマ

これは代々木上原にある「うつわや」さんのオーナー、あらかわさん
との出会いがきっかけでした。
代々木上原 うつわや

あらかわさんはお料理の本を2冊出しています。
たくさんの方々から伝えられた、おいしいお料理を
手に入りやすい材料と、わかりやすいレシピで伝えてくれます。
美しい器はあらかわさんのお店で扱っている作家さんのもの。
優しい味の心温まる内容です。

心を豊かにする講座を開きたいと、誘ってくださった
その奥にも、やはり何かを伝えていきたいという思いを
感じさせられます。私には貴重な経験となりました。

父の一周忌で山口県への帰省途中、周南市と柳井市で
もワークショップを開きました。
友人が1年前から計画してくれたものです。


周南市のワークショップ

4クラス、約30人の方々と「結び」「包み」の基本でお年玉の包みと
お正月のお箸包みを作成。結びは「菊綴じ結び」「あわび結び」で、
それぞれ包みに付けて仕上げます。



柳井市の皆様

7年間の遠距離介護で年6回は山口で過ごしました。
途中下車して京都の先生に結びを習い始めて6年が過ぎ、
しみじみと京都という街の深さを感じさせられています。
先生のお陰で、結びの精神性という面の大切さに気づき
そのことがすべての始まりだったような気がします。

五節供や年中行事というハレの場の意味するもの。
このテーマをしっかり学んで、結びを通して少しづつでも
伝えていければと考えています。

今年出逢った皆様には多くの機会と力を頂きました。
またご一緒できることを願っております。
本当にありがとうございました。

2010年9月25日土曜日

第2回ワークショップ 「祭の中の結び」

代々木上原 うつわやさんで2回目のワークショップを開きました。
京都祇園祭のお話を中心に、総角結びの文香など作りました。

7月15日から17日まで、京都祇園祭を見学。
今回はたくさんの結びの写真が撮れました。

千年以上の歴史を誇る「祇園祭」 。9世紀に始まった夏祭りのさきがけで、
1か月にもわたる 神事や行事は都市特有の夏のお祭りです。

日本最大の都市であった当時の京都は、人家が密集し、上下水道の不備
からしばしば悪疫が発生していました。
この疫病をもたらす疫神を追い出すため、華麗な神座 (かみくら)を設けて
地域内をひき回し、神輿を迎える 先祓いとして町を清めます。

祇園祭では2つの行事が同時に行われています。 一つは八坂神社を中心とした神事です。


16日に撮った八坂神社の神輿。
八坂紋の結びと総角結びが美しく飾られ、
神輿自体にも八坂紋の文様が彫られています。

三基の神輿が神社正門を出発して、夜半に四条寺町の御旅所に納まります。
この祭りこそが平安時代に始まる祇園御霊会です。

そしてもう一つは町衆の経済力に支えられた、疫神を追い出すための山鉾巡行。
南北朝時代から室町時代にかけて行われた、華麗な疫神祓いの行事です。

次の日の山鉾巡行に備えて大切に保管されている結び。
結びの勉強をしていると伝えると、写真を撮ってくださいました。

17日は雨も上がり、美しく飾られました。


綾傘鉾は山鉾の古い形態を今に伝える傘鉾の一つ。


神様の使いとしての役割を持つ「生稚児」。長刀鉾稚児の最重要儀式は注連縄切りです。
神域との結界を解き、巡行を進めます。結びには様々な意味がありますが、「結界」という
とても重要な役割をもっています。

長刀鉾の生稚児
稚児舞を初めてみることができました。


京都のお祭りには、華麗で優雅で、深い意味のある多くの結びに出あえます。




見過ごしてしまいがちな結びですが、美しく結ばれた結びがゆらゆらと揺れる様子は
何とも優美で、京都の人々の繊細な技術と感性を感じさせられます。



2010年7月17日 京都祇園祭にて

2010年6月16日水曜日

嘉祥の日_6月16日

今日は嘉祥の日。

旧暦6月16日に「嘉祥(かしょう)」という行事がありました。
お菓子を食べて、厄除けと招福を願う儀式で江戸時代には
宮中や幕府でも重要な儀式でした。

江戸城では大広間に約2万個の菓子を並べて、将軍から 大名・旗本に
与えたそうです。大変な数のお菓子です。 準備されたお菓子には寝ず
の番がついたそうです。

その嘉祥にちなんだお菓子が虎屋さんに並びました。
(限られたお店だけです。これは六本木ミッドタウン店)
和をテーマにした虎屋さんの今回の企画展は「京扇子」。いつも素敵な展示です。


<嘉祥饅頭3個入り>
(左から「和菓子の日」」「招福」「嘉祥通宝」という名前)




この儀式は明治以降廃れてしまい、昭和54年に全国和菓子協会ではこの日を
「和菓子の日」と定めたそうです。

<嘉祥菓子7ヶ盛>
これは江戸時代末期に虎屋さんが御所に
お納めした嘉祥菓子を再現したものだそうです。

<福こばこ>
縁起の良い3種の生菓子


起源については、基本的には「不明」だそうですが、嘉祥年間(847~851)に
発祥したといわれています。包結記の著者、伊勢貞丈は「貞丈雑記」の中で
嘉祥の日について

「~省略~そのはじめたしかならず。東山殿よりはじまるという説、信じがたし」

と書いています。
貞丈は信用できるいくつかの文献で起源の確認できなかったので、諸説の一つを
「信じがたし」としています。 「包結記」の結びについても「これは伊勢流ではないが、
かといって他の 流派でもない」など、何事も正確に伝えようとします。
その心情には様々な背景があるようですが、貞丈の実直さがこれらの本の魅力であり、
また興味深いところでもあります。

貞丈雑記には菓子研究の上でも注目すべき記述が数多くあるそうです。
貞丈の身分は旗本。江戸城の嘉祥の儀式は貞丈にとっても楽しみの一つだったの
かもしれません。

2010年6月15日火曜日

お返し_おうつり扇

人からものを贈られた時に、その容器の中に「お返し」として「紙」(移り紙)を入れたり、また「つけ木」

を入れたりする習慣があった。「沙石集」には「返り引き出物として紙一枚ぞ給わりける・・・」とあるが

これが今の「うつり」なのである・「うつり」とは「名残り」の意味なのである。

またつけ木のことは古くは「硫黄」といった。

「硫黄」とは「祝う」に読みが同じなので、祝う意味から硫黄を「うつり」に用いたのである。

(額田巌著「包み」より)



京都では婚礼があるお宅にご祝儀を持って伺うとその場でお返しをする「おため」という風習があり、その際に紅白の懐紙にこのおうつりの扇を挟んで渡すという風習があるそうです。

おためとは 「お多芽」=「おうつり」のことで、お祝いを下さった方のために、というところからおためと呼ばれているそうです。


おうつり=末広がりにお悦びがうつっていくよう

六本木ミッドタウンに行く時には、必ず虎屋さんに行きます。
和の講座にも時々参加します。
お香の講座、和綴じ本の講座などなど





2010年6月3日木曜日

第1回ワークショップ「古書に見る包み結び」

6月1日 代々木上原 「うつわや」にて

6月・7月・9月、月1回の3回シリーズで、結びと包みについて
お話させていただくことになり、うつわやさんとご縁のある方々、
8名が集まってくださいました。

第1回目は江戸時代の武家故実家、伊勢貞丈の「包結記」の本
から「結び」と「包み」のおはなし。
「包結記」は1764年に「包みの記」をまとめ、のちに「結びの記」と
ともに「包結図説」と呼ばれるようになりました。室町時代から代々
武家の礼法故実に精しい伊勢家に受け継がれてきたものです。

「知識だけではなく、先人たちの事柄に対処する際の知恵。
そういったものを伝授していく気概を示してくれている」と
額田巌先生が書いておられるように、「秘伝」を出版に踏み
切った貞丈の思いが、言葉の端々に感じられます。


復刻版「包結記」



この本には約50種類ほどの結びが紹介され、その名前は、草木・虫・
魚貝・男女名などが大部分をしめ、自然の生命力に対するあこがれを
感じさせられます。

また吉と凶に対する使用上の分類、地位や階級による使用上の
規約など、儀礼的にも高度な世界を十分に伝えています。

花結びという王朝時代の優雅な結びについては「用のない結び」
としながらも、捨てることは簡単だか、役に立つこともあり、こういう
ものも伝えていかなければならない、とあります。

この書にある結びを結んでみました。




講座の中ほど、うつわやさんが選んでくださったおいしいお菓子と
お茶で一休み。お懐紙を吉の折りにして、さっそく用意して頂いた
干菓子をその上に。日本の紙や折りの「用」と「美」と「心」が
何百年経った今も受けがれていることが不思議にも思えます。

作家さんの器に囲まれ、お花がさりげなく飾られたお店でのひと時
は心地よく、「心を豊かにする会」を開きたいといううつわやさんの
思いが伝わります。

折形デザイン研究所では基礎から応用まで様々な美しい折り・包み・
水引の結びを教えていただきました。
デザイナーで構成される折形デザイン研究所の方々の目を通して
日本の伝統的な儀礼文化に触れたことで、私の結びの世界は広がり
ました。

「むすび」をどう伝えていきたいのか、改めて問われるよい機会に
恵まれ、結びが「包む・たたむ」とともに大切な文化であることを
確信し、今後もこのような活動を地道に続けたいと考えています。

7月は「祭りの中の結び」をテーマに、祇園祭をとりあげ、結びに
まつわるお話と、小さな結びの小物作りに挑戦します。

2010年3月24日水曜日

上巳の節句_鶴岡 旧風間家住宅の雛人形

3月の連休、初めての山形旅行。
雪深い東北地方では今でも旧暦通り1ヶ月遅れの4月3日に
ひな祭りを行うことが多いとのこと。たくさんのお雛様に出あえました 。


庄内藩御用商人から豪商となった旧風間家のお雛様。
お内裏様の後ろには「たち雛」が、お飾りにはカルタや毬も。


江戸時代から大正時代までは向かって左が女雛でした。

たくさんの結びがお雛様の衣装を優美に飾ります。
紫の紐はあわび結び、肩から下がっている飾りは、梅結び→あわび結び
→あげまき結び→あわび結びを色とりどりの紐で連ね、房をつけています。


手に持った檜扇(ひおうぎ)には6色の紐(山科流では紅・緑・黄・紫・白・薄紅) を
両端に蜷結び(になむすび)にしています。
蜷結びは古い結び方で、調度品にも使われています。


鶴岡では、この押し絵がたくさん見られました。


そしておひな菓子として、干菓子、生菓子、飾り菓子(花鳥風月、山海の幸 を模ったもの)
をお供えする伝統があるそうです。

子供たちの健やかな成長を願うお節供には多くの結びが見られます。
赤い紐は全体を引き締める装飾的な効果もありますが、昔から護符として 伝えられた
結びは美しいお守りにもなっているのでしょう。
今年はたくさんのお雛様に出会えました。


この地方のおおらかさと温かさを感じる人形。
瓦人形というそうです。鶴岡駅構内で。

2010年3月23日火曜日

上巳の節句_島根県のおとこ雛

実家に帰省中、「お雛様を飾っているので見にきませんか?」
とお誘いを受けました。島根県のご出身で、男の子が3人いらした
お宅。 伺うと、立派なおとこ雛が飾られていました。


珍しい雛天神と呼ばれる男の子のための雛人形

島根県では、男の子が生まれると健やかな成長を願って
人形を贈る風習があるそうです。
また月遅れで祝うところも多く、 4月3日ころまで飾るそうです。
端午の節供もお祝いするそうですので、後継ぎの誕生はやはり
大切にされていたのでしょうか。



長男には腰を据えて家を守ってほしいという思いから「座り人形」を、
二男、三男には一本立ちしてほしいという思いから、「立ち人形」を
贈ったといいます。


お節供に興味があるという私の言葉を覚えていてくださり、
お子様全員独立された今もこうして雛人形を飾るご夫婦の気持ちに
触れ、 心あたたまる一日でした。

2010年1月5日火曜日

□初卯祭 亀戸天神社

亀戸天神社 2010年1月5日

今年は、今日5日が最初の「卯」の日。
亀戸天神社の境内に隣接する御嶽神社の初縁日でした。

御嶽神社 御嶽神社は、御祭神に比叡 山延暦寺第十三代座主
法性坊尊意 (ほっしょうぼうそんい)僧正を祀っています。

法性坊は、菅原道真公の勉学の師、御祈の 師で、
天慶3年(940年)2月、卯の日の卯の刻に 亡くなったこと
から「卯の神」と信仰されています。特に正月の卯日(初卯)
は春の陽気を迎えるはじめとして初卯詣の人が多いという
ことです。

この日は、江戸時代より続く「卯の神札」と「卯槌」が
授与されるとのこと。 卯槌については大阪の住吉大社と
亀戸天神社 しかこの行事を 見つけることができなかったので
前々から 興味がありました。 やっと卯槌たるものを手にでき
喜んでいます。


卯槌

卯の神札


源氏物語や枕草子に出てくる卯槌は少し形が違うようです。
宮中の行事の一つで、初卯の日に卯槌を贈る習慣があった
そうですが、四角い木に5色の糸を長く垂らし、山橘や山菅
などで飾り立て、うたなど添えて贈るという優雅なもの。
今のところ絵もなく、想像して作るしかないようです。

忘れられた花 というページで卯槌、空木(うつき)など、
詳しいお話があります。
http://www.sol.dti.ne.jp/~tmorioka/wasure-hana/utugi.html