2012年5月9日水曜日

結び  ~東北の旅から~

連休は2泊3日で東北に。目的は藤原清衡が残した、中尊寺経の紐。
平清盛が残した厳島神社の平家納経と並ぶ、高度な技術で組まれた紐です。
末法思想の世の中、写経ブームとなり、清衡は経巻用の紐を5000本作りました。

残念ながら、その多くは豊臣秀吉が(勝手に、といわれてます)高山寺に移して
しまったので、わずかしか残っていません。
復元したものと古いもの5本くらい見れました。色も柄も洗練されたものでした。

<中尊寺>
連休中で多くの人が訪れていましたが、杉の木に囲まれた参道の美しさは
想像以上のものでした。
中尊寺の表参道「月見坂」樹齢300~400年の杉並木が続きます。


中尊寺の北方鎮守、白山神社の境内に「白山神社能舞台」はあります。
萱葺き屋根と、素木(しらき)の木目が美しい舞台です。
ここで「御神事能」を観ることができました。

「竹生島」が上演されました。

シテ・ワキ・囃子・狂言という諸役を、中尊寺の僧侶が稽古して
務めるところが特色で、全国で唯一の例だそうです。
日本の文化は地方の歴史の力に支えられていることを感じました。


能装束の紐はシンプルな結びですが、露の結び、胸紐の美しさは
静かな舞の中で、厳かな雰囲気を引き立てます。






















幕の両側に結びがあります。にな結びが結ばれていました。

この結びは、葵祭の斎院の冠の美しい飾りとして
使われています。そのほか調度類にも見られます。

同じ結びが場所と用途によって大きく表情が変わり、またその意味も
興味深いものですが、伝統が受け継がれている場所、神聖な場所では
必ずどこかに結びを見ることができます。

ひっそりと、静かに、絶えることなく・・・。
そんな結びを愛おしく思います。

2012年3月20日火曜日

「春のおもてなし」 小倉織展示会

縞縞を含め手織り作家の皆様、スリングのデザイナーなどを一同に集めた展覧会が、
3月7日から9日まで、東京の代官山ヒルサイドテラスで開催されました。

染織家、築城則子さんから、小倉織の生地でお仕覆を作りたいので結びをお願い
できますか?という嬉しいお誘いがありました。
すっきりとした縞の小倉織の生地と手組のピンとした組紐の曲線はとても相性が良く、
モダンな縞が全体を引き締めてくれます。

        左から、鶴結び - 茶の実結び - 千代久封じ結び



また美しい機械織りの縞、SHIMASHIMAブランドの生地で小倉織の可能性は
大きく飛躍しました。



インテリアから雑貨、テーブルウェア、バックなど、きりっとした縞と繊細な
グラデーションは空間に深い彩りと立体感を生み出します。
私は小倉織の大ファンで、「無彩キュービック」の縞でジャンパースカートを仕立てて
いただきました。着心地は抜群です。

一度は廃れてしまった小倉織が、新しい縞となって生まれ変わり、さまざまな形を作り上げています。日本の伝統文化を引き継ぐ際に大切なことは、結びにも通じるものがあります。
結びにも新しい可能性や価値が生まれるように、またコツコツと結んでいきます。

2011年10月25日火曜日

浅草寺 菊供養と金竜の舞

前回ご紹介した、浅草寺の菊供養に出かけました。
久しぶりの浅草は観光客で賑わっていました。
まず、境内で献菊を買います。



それから、本堂に入りますが、その時入り口ですでに献花された下供菊と交換します。
この交換した菊は陰干しした後、枕の下に敷いて寝ることでご利益があるそうです。
お参りを済ませ、この日限定の長寿を祈願をした「菊のお守り」を授かりました。




そしてこの日は、「金竜の舞」という奉演が行われます。
浅草寺の山号「金龍山」から名をとったこの舞は『浅草寺縁起』に、観音示現の時
「寺辺に天空から金龍が舞い降り、一夜にして千株の松林ができた
(現世利益ともなる五穀豊穣の象徴)」とあることから創作されたもの」だそうです。


お囃子とともに、竜が仲見世から境内まで舞いながら進んでいきます。








竜は右へ左へと見物人の頭の上を通ります。獅子舞のように
ご利益があるのでしょうか。みなさん頭を出してみたり、うろこをさわってみたり。
なんとなくありがたい気分になります。




竜が門を通るときには、本当に生きているように見えました。




その門を過ぎると、そこには大きなわらじが飾られていました。
東北には藁を巧みに利用した美しい結びがたくさんあります。

「日本の伝統パッケージ」と名付けた岡秀行さんのコレクションを紹介
する展覧会が今年目黒区美術館でありました。「卵つと」という藁の卵の包みは
本当に美しく、運搬用に日常使われてという事に驚かされます。

東北の藁の結びは、機能的で、素朴だけれど優れたデザインだと感じます。
申し込んでいたワークショップが震災でキャンセルとなり、残念でしたが、
折形デザイン研究所のご紹介で、「卵つと」に挑戦する機会を頂きました。
無残な包みが一つできました。卵は何とか無事でしたが。


金竜の舞の舞い手、そして浅草組合花組のお囃子の方々、皆さん
えり袈裟をつけていらっいました。あわび結びでした。
男性と女性とで紐の上下が違っているようでした。


三味線の弦には朱色の結び。紐や結びはお祭りでは大活躍です。






これは楽器の紐。背に大きな叶結びが付けられています。
この結びは表から見ると四角く、裏は十時になっていて、口+十で
「叶」という字を表します。縁起の良い結びです。
神事でも仏事でも結びは必ずどこかに使われています。
はっぴの背の真っ赤な結びが、きりっとした彩りを添えていました。

2011年8月17日水曜日

長府毛利邸 -七夕の室礼ー その2

毛利邸の魅力は、美しい庭と建物、そして各お部屋に飾られる花々です。









初日朝、サーと雨が降りました。止んでよかった、と思っていたところに
館長さんが、「雨が降ると杉苔の緑がきれいなんですよ。」と話してくれました。
「雨が降ると杉苔が・・・」
当たり前のようにお話されるのですが、そんなこと感じることのない生活に
ため息が出ました。


雨は昔からありがたいものでした。「恵み」ということをすっかり忘れていました。


雨上がりのお庭




お庭は大切に手入れされています




近くの方が持ってきてくださった、見事なハスの花



大広間の裏は廊下になっています。
この空間に、坂本杏苑の墨象と、糸巻きの明かりを入れました。
LEDの「ゆら」はうろうそくのように灯が揺れます。(中国製・東急ハンズで購入)




奥に坂本杏苑の墨象と、彼女と東京でコラボした画家の作品
床の間にも美しくなじんでいます。
お花もコラボ、です。




朝毛利邸に着くと、中庭にたくさんのお花がお水にさされています。
一晩夜露にあてておくそうです。
毎日夕刻にはお花を下げ、朝にまた新しいお花も加えていけなおす。
大変だなあ、と思いつつ、やはりこういう豊かさにあこがれます。


毛利邸には買ったお花がないそうです。
山や野からは勿論、毛利邸にお花を持ってきてくださる方、
こんな花が咲いてますよと知らせてくださる方。
お花の方からやってくるような感じがするそうです。


全てが自然の花でありながら、買いたくても買えないような
立派な花もたくさんあります。


毛利邸での室礼は「書と結び」そして「お花と建物」という
4つの力が働いて、一つの空間を作っています。
お盆を前に毛利公もそっと参加してくれていたような気がする
「七夕の室礼」でした。

長府毛利邸 書と結び二人展 ー七夕の室礼ー その1

2011年8月5日~8日まで
下関市長府毛利邸にて、書家の坂本杏苑と七夕の室礼をいたしました。



長府毛利邸入り口





これは3日目の笹飾り




笹は一日で葉がくるりとなってしまうのが課題でした。毛利邸の裏庭にとても
珍しい「金明竹(きんめいちく)」という、黄色に緑の線の入った竹があり、
「これでよかったらいくらでもお使いください」と館長さんが言ってくださり、解決。
思えば、贅沢なことでした。

結局毎日竹を入れ替え、そのたびにみんなで短冊や五色の糸を掛け替えることに
なりましたが、毎回違う展示になり、これも楽しみとなりました。
毛利邸の皆様、毎日ありがとうございました。



京都のお店に注文した「七夕の紙衣(かみこ)」

紐や花結びだけ自分で取り換えてみました。
真ん中は、京都のお料理屋さんで出していただ
いた 梶の葉を乾燥したものを包んだもの。




今回はなんといっても、この「大短冊」
布に般若心教を書いたものが6枚、そして5枚の布に、5色の結びをそれぞれ
真ん中に。(後ろに、白、黄、赤、緑と続きます)
竹は、やはり毛利邸の金明竹。画びょうも何も使わず、展示できました。
私たちの室礼はいつもこの建物に助けられ、包まれています。




陰陽五行の5色。
結びはなるべく涼やかなものを選びました。





大広間には、前回と同じお節供の掛け軸にハスの花。
違い棚は蝙蝠(かわほり)扇
お仕覆、梶の葉、京の七夕さんなど。





付け書院には坂本杏苑が春日大社で求めた五色の筆
文箱はひいお爺さんが使っていた、秋の七草柄のもの。





毛利邸には14の部屋があります。
大広間を抜け、明治天皇ご宿泊の間を過ぎると、すーっと冷たい風が流れ込みます。
奥のお部屋には天井裏に空調が取り付けられています。
送り火としての行灯は、庭に面した廊下に置くつもりでしたが、明るすぎて、
この奥の間にひっそりと置きました。




坂本杏苑の墨象の行灯に、結びを施しました


七夕のお節供には様々なモチーフが持ち上がりました。
学ぶほどに、昔の人々は「ハレ」と「ケ」を上手に生活に取り込むことで
心の持ちようを自然に身に付けていたように感じます。

毎年の行事が続けられる幸せを、東北の方々の姿から学びました。
規模は小さくなっても、今年も長く伝わる行事の開催に全力を挙げ、
その姿に涙する人々の気持ちに触れて、繰り返し続けていくことの
大切さとその意味を教えられました。

続けてきたからこそ、そこからまた新しい力が生まれるのだなあ、と
あらためて年中行事の大切さを感じさせられた年となりました。

2011年7月11日月曜日

書と結び展 -七夕の室礼ー

旧暦の七夕に、下関市の長府毛利邸にて書と結び展を開催いたします。



□日時 2011年8月5日(金)~8日(月)am9:00~pm5:00
     *最終日はpm3:30まで


□場所 下関市 長府毛利邸(083)245-8090








五節供の一つ七夕は、日本古来の行事と、中国から伝わった
星伝説、乞巧奠という行事が習合したもの。
奈良時代には芋の葉の露で墨を磨り、梶の葉に和歌を書いて
供えるという、優雅な行事が宮中を中心に広まりました。

書の坂本杏苑は、和歌、墨象など幅広く七夕を表現することでしょう。
私は、琴袋の結びや、祇園祭の角房の結びなどをモチーフに、
七夕というハレの日の室礼を考えてきました。

14室ある毛利邸での展示は2回目になります。
この空間の気持ちよさ、質素で上品なたたずまいにすっかり魅了され
また館長さんはじめスタッフの皆様との再会も楽しみとなってまいりました。

2年ぶりの毛利邸での室礼。
少し大人っぽい七夕の飾りを楽しんで頂ければと思います。









2010年12月26日日曜日

2010年を振り返って

11月30日、父の一周忌を迎えました。
この1年は結びを通じて新しい出会い、新しい試みが
続きました。父が「やってみなさい」と背中を押してくれ
ていると思うと、前に進む勇気がわきました。

それは、これまで続けてきた「結び」と「包み」の
出逢いでもありました。「包結記」という本を江戸時代に
出版した伊勢貞丈。武家社会に生きた故実家の1冊の
本が、私を折形の世界に導いてくれました。

折形教室に通って以来、この本は私に包み結びの奥に
ある心のあり方を伝えてくれる大切な本となりました。



室町時代に確立された折形を、「日本人ならではの美しい
伝統の一つ」として、現代の折形を探求する折形デザイン研究所
いつかこんな風に結びを伝えていきたいと思うようになり、
自分の方向性がうっすらとですが見えてきた年でした。

そして今年、かねてから興味のある五節供や年中行事を
テーマに結びのワークショップを始めました。
結びの文化の入り口として包みの基本を取り入れ、半年かけて
結びと包みをゆっくりとやってみました。


9月の講座は「重陽の節供」がテーマ

これは代々木上原にある「うつわや」さんのオーナー、あらかわさん
との出会いがきっかけでした。
代々木上原 うつわや

あらかわさんはお料理の本を2冊出しています。
たくさんの方々から伝えられた、おいしいお料理を
手に入りやすい材料と、わかりやすいレシピで伝えてくれます。
美しい器はあらかわさんのお店で扱っている作家さんのもの。
優しい味の心温まる内容です。

心を豊かにする講座を開きたいと、誘ってくださった
その奥にも、やはり何かを伝えていきたいという思いを
感じさせられます。私には貴重な経験となりました。

父の一周忌で山口県への帰省途中、周南市と柳井市で
もワークショップを開きました。
友人が1年前から計画してくれたものです。


周南市のワークショップ

4クラス、約30人の方々と「結び」「包み」の基本でお年玉の包みと
お正月のお箸包みを作成。結びは「菊綴じ結び」「あわび結び」で、
それぞれ包みに付けて仕上げます。



柳井市の皆様

7年間の遠距離介護で年6回は山口で過ごしました。
途中下車して京都の先生に結びを習い始めて6年が過ぎ、
しみじみと京都という街の深さを感じさせられています。
先生のお陰で、結びの精神性という面の大切さに気づき
そのことがすべての始まりだったような気がします。

五節供や年中行事というハレの場の意味するもの。
このテーマをしっかり学んで、結びを通して少しづつでも
伝えていければと考えています。

今年出逢った皆様には多くの機会と力を頂きました。
またご一緒できることを願っております。
本当にありがとうございました。